先日、いつも往診へ行っている患者さんのお宅へ急遽連絡をいただき向かいました。旦那さんが腰痛になってしまったとの事でした。そちらの旦那さんは以前、ヘルニアで1ヶ月半ほど入院した経験があります。当時は痛み止めの点滴を毎日し、ブロック注射も何回かしたけれど効果が無かったようです。そういった経験から、ずっと腰には注意をなさっていましたが、気温の変化が激しかった事とお仕事が忙しかったのが重なって、腰痛になってしまったそうです。
1日目は椅子から立ち上がるのが痛かったようだったので、股関節周りとお尻の筋肉に鍼をしました。術後はかなり楽になった様子で、動きもスムーズになっていました。しかし２日目は症状が変化していて、寝返りをするのも難しい状態になっていました。明らかに症状と原因が変化していたので、治療のポイントを組み立て直さなければなりません。さらに、患者さんもすごく落ち込んでいました。以前のヘルニアでの入院経験が頭をよぎり、激痛に耐える１ヶ月半がまた始まるのかと言う不安と、いつ激痛が来るかわからない怖さ、なかなか治らない苛立ちが合わさった複雑な感情だったように感じました。普段は明るくて社交的な方なのですが、こんなに落ち込んでしまうんだなと改めて思いました。また、ご家族の負担もありました。痛いと言われてもどうする事も出来ずに、それをただただ見て聞いているだけと言うのはすごく精神的な負担になります。２日目は腹筋と筋連結がある腰方形筋と腹筋に鍼をし、大腿四頭筋と腸腰筋のストレッチを行いました。術後はまだ怖さがあるようでしたが、電撃痛が走る感じは軽減している様子でした。３日目は、怖さはあるけれど大分楽になっていて、電撃痛もなんとなくありそうだけど大丈夫と言った具合でした。この頃には普通に座ってお茶を飲んで話をする余裕がうまれていました。術後の調子が良さそうだったので、４日後に次の治療をする事にしました。４回目の治療では、かなり痛みが軽減していて、電撃痛はないようでした。唯一長く座ってると腰に重ダルさがあるくらいで、日常生活には支障はないとの事でした。痛みがかなり軽減されたのと、早く良くなった安心感もあり、いつもの明るい表情に戻っていて、こちらも非常嬉しく思いました。
今回、改めて感じた事が２つありました。それは、『痛み』が持つマイナスの力は、本人はもちろん、想像以上に周りにも影響すると言う事です。痛みからくる苛立ち、不安は人をマインドをマイナス方向へ変える力があります。また厄介な事に、痛みの度合いは本人にしかわからないので、自分の状況を理解してもらえないと言う辛さもあります。それがさらにマイナスの深みへと導きます。また、『痛い』と言われる側、周りの人への影響も大きいです。正直、大げさだと思う場面もありますし、日頃の不摂生だと咎めてしまいがちです。そして何より心配です。だからと言って、痛いと言われてもどうする事もできません。症状が出ている本人も辛いですが、見ている周りの人もかなり疲れてしまいます。どんな症状でも、本人と周りの人に精神的な疲れや重たさをもたらしてしまいます。改めて感じた事のもう一点は、鍼の力は症状の治療だけではなく、周りの人にも影響があると言う事です。ご本人が日常を取り戻せると言う事は、ご家族もまた日常の安定した雰囲気に戻れると言う事です。
実は、豪華客船で働いていた時には、こう言った理由で鍼を受ける方が大半でした。せっかくの家族旅行なので、あちこち観光していきたいけれど膝の具合が良くないのであまり遠くに行けず、家族に心配をかけてしまう。もともとお腹の具合が悪くなりやすいから、鍼を受けてコンディションを整えてから、家族と楽しくディナーを過ごしたいなど、前向きな理由で受けていただいた方が多い印象でした。豪華客船でずっと考えていた、『なぜ 鍼治療を受けるのか』と言うテーマを改めて思い出させてくれました。
本来治療は、痛みを取るのが目的です。しかし、見落としがちなのは治療の向こう側です。症状が楽になる事でご家族の心配事が軽減されて、明るい雰囲気になる事。痛みが楽になったので、趣味の海外旅行が再開できた。鍼治療を通じて鍼灸師が提供できるものは、本来はこう言う事ではないかなと思います。また、鍼治療を受けた事がない患者さんの多くは、半信半疑で受けに来られます。なので効果が出て良くなった時には、本当に感動して喜んでいただけます。それが鍼灸師の励みになります。今回の往診では、改めてそんな事を思い出させてくれました。私自身、まだまだ勉強しなければいけない事だらけです。なので、一人でも多く、頼って来られる方に感動を提供できるように努力しないといけないなと思いました。鍼灸師は、『ありがとう』と言っていただける場面が多い仕事です。ですが、本当に豊かにさせてもらっているのはこちらの方です。感謝していただけた事に感謝したいですし、お一人お一人の力添になれるように、鍼灸師としても人間としてもまだまだ修行していきます。
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